Sifuあだちや 土に還る鞄 #3

~ 紙布への疑いと知るへの疑い~

 

「88」・・八の漢数字は日本や中国では末広がりを意味し、縁起の良い数字として慣れ親しまれています。また西洋では8を横にし宇宙に無限に末広がる意味合いもあるようです。

日本では88歳は八十八を一つの文字としてくっつけると米の字になることから長寿として米寿のお祝いとしてきました。

 

7月の上旬、水戸へと行き紙布作家の桜井貞子先生と一緒に紙布の普及に邁進された方のもとにお線香をあげに伺いました。

梅雨時期であるはずが、あまり雨も降らずこの日も晴天の32度を超す暑い日でした。先日米寿を記念しての紙博での作品展を終えたばかりの桜井先生は、これからまた更なる目標を話され、外の熱気などモノともせずです。

その後も私のものづくりの好奇心を掻き立てる紙布制作の作業場で、話が尽きず和紙~紙布~江戸小紋 などなど

何十年も和紙と携わっておられる先生は和紙の更なる奥深いところを説明してくださいました。

11月~1月の寒漉きの良質の和紙を先生は、紙糸にして紙布へと織り上げます。皮は現在はソーダ灰か苛性ソーダで煮るのが主流ですが、先生は、灰汁煮してできた和紙は最高だと、おっしゃいます。その後和紙は1~2年は寝かしたほうが良いそうです。

そして非繊維素(ひせんいそ)が混ざる方が強い和紙となり、晒し(さらし)すぎると弱い和紙ができてしまい、紙糸として染める際も、非繊維素があった方が染まりやすいそうです。しかし、非繊維素がありすぎると、反対に固くなりすぎるといった、とても繊細なバランスを要求とされるのが、先生の紙布用の和紙なのです。

非繊維素がある和紙は黄色っぽい色をしていますが、障子に張られると、紫外線を少しづつカットしながら徐々に白く変わってくるそうです。

そのような条件でできた桜井先生の紙布は、着物などに仕立てられ、時々、私のところでは鞄など衣類以外の形状へと製作いたします。

先生は実際にいつもよく使ってくださり、感想やあらゆるアドバイスを受けます。

紙布ショルダー・バッグinバッグ
紙布~桜井貞子先生/綿紙布(藍染)

このショルダーはBag in bagで、ナスカンとDカンで繋がるようにしており、ポーチの開け閉めはファスナーで、ショルダーの口元は大きく開き革のボタンで閉じるようにデザインされています。

肩部分は、負担を軽減させるため、丸みをだしたくるみのデザインにしています。

桜井先生は小柄ですが、お着物をお召になることから、袖が邪魔にならないように余裕をもたせました。

「Sifuあだちや」のトートのほうも、汚れては洗ってと、よく使ってくださってますが、「持ち手が一番汚れるのよね。」と、先生。

お伝えするのを忘れてました・・・

持ち手をつけているDカンは、マイナスドライバーで鞄からはずせるようになっているので、持ち手だけ洗うことが可能なのです。

 

先生は、シューズなどを洗うブラシでゴシゴシ、ゴシゴシ!?洗っているそうです。

私は、洗剤を湿らせた布で叩くように洗っているのかと思っておりましたが、「紙布は強いから、特にあなたの紙布は丈夫だから大丈夫。私は紙布を知り尽くしてるから。」

ちょっと、私自身がビックリ・・、「えっ!ブラシでですか?」

いくらなんでも、紙素材を・・と思っていると「そうよ。こうやってね、ゴシゴシとブラシで汚れをとるの。ぶら下げて干して、アイロンはまだかけてないけど、ほらね。」と

確かに、汚れは取れているようですが、

ケバケバもたっていません。

あ~。紙だからか・・ケバだたない。

またまた、紙布の不思議に出会った感じがしました。

「凄い、凄い!」とにやけ、とにかく、桜井先生と話すと発見者になった気分になり楽しくてしょうがないのです。

先日作った和紙の組紐も持参していたので見ていただきました。

「ねじって、何かに使えないかしら・・」と、目を輝かせて好奇心を覗かせる桜井先生は、本当にコケティッシュな女性なのです。

桜井先生は、古き伝統を好んでらっしゃいますが、意外と新しもの好きなんだとも、思いました。だから、メールを打つときの指の動きが早い早い。

ご自身は「私はスマホは持たないの。持ったら多分のめり込んでしまうのがわかるから(笑)」とのこと。 依存を心配されてるのでしょうか(笑)

先生の「紙の博物館」でしめておられた江戸小紋の帯に話が及ぶと、江戸小紋の型は、和紙を何枚も重ねて、柿渋を塗ったものを型として使うようです。ガラスで透かして白い箇所に糊をのせ、染まらないようにして染色をする技法であるようです。

型は江戸時代に制作されたもので、大事に保管しながら、傷めば専門の職人さんが修繕しながら使っているそうです。

「桜と蝙蝠」
型紙:小宮康孝先生 収蔵
染  :島田染工

こちらのゆかたは、桜とこうもりの柄の、両面江戸小紋で、裏面も染色された貴重な品です。

蝙蝠は縁起の良い柄らしく、なぜだかはわかりませんが、中国では、害虫を駆除する縁起の良い動物とされているようですが。そこからきているのでしょうか・・・・・

いつか、詳しく調べてみようかと思います。

こちらは、鮫小紋という型紙を使った、江戸小紋らしいです。

とても細かい柄で、この白抜き箇所に糊をのせていくのです。

本当に素晴らしいです。

日本の手仕事の匠の技です。

江戸小紋に対する、私の好奇心がむくむくと、湧き上がってきました。

 

毎回、桜井先生のところに伺うといつも日が落ちるまで話し込んでしまいます。申し訳なく、そろそろ失礼しなくてはと切り出したところで、先生が「これで、またバッグを作りなさい。」と私の目の前に出してくださいました。

 

紙の博物館で「チョッキ」として展示されていた諸紙布の裁断の残りでした。

染色は紅茶でしており、縦、横とも和紙なので、もともとは半反(約7m程)を織り上げておりますが、和紙は48枚~50枚とふんだんに使っているそうです。

横糸が6mm巾に切った紙糸を使いますが、縦糸はそれより細く3mm巾に切って撚りあげた紙糸を使うのです。

そんな貴重な諸紙布を私に託してくださり、帰りの車中では、ブラシでゴシゴシを思い出しながらひとり、ほくそ笑みながら、ポリフェノール加工を施した革とのコンビ使いにしようと想像しながら、帰路を急ぎました。

 

「疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う」

うたがうがゆえにしり、しるがゆえにうたがう

いつも当たり前に思っていることは、本当に当たり前なのでしょうか?見方をこれまでと違った角度から変えて見てみると、これまでと全く違った風景が見えてくることもあります。

そして、新しい見方を手に入れることで、これまでの常識に対して疑問が生まれるのです。これを繰り返すことで、私たちは学び成長するのではないでしょうか。

今日はこの言葉が私の心に響いた論語です。

takako.n